民泊に関連する消防法の詳細を解説します!


民泊の場合の消防法の規制は、アパート等の1室で民泊をする場合でも、原則的に、アパート全体に【自動火災報知設備】【避難誘導灯】【消火器】設置は最低限必要になります。

(a)(例外)今回民泊する部分だけの設置で済む場合があります!

※例外として、小規模特定用途複合防火対象物という制度があり、特定防火対象物部分(物販店・飲食店・老人ホーム・民泊部分など(他の人が運営している民泊部分も含む)の延床面積が、建物全体の延床面積の1/10以下かつ、300㎡未満である場合は、消防設備は民泊部分だけで済む場合があります。

消防法の用途についてはこちら >

上記資料の「黄色部分(特定防火対象物)」の延べ床面積の合計が、建物全体の延べ床面積の1/10以下かつ、300㎡未満である必要があります。

※今回お客様が申請する民泊部分だけではないのでご注意下さい。詳しくはご相談時ご説明致します。

(b)原則は、建物全体に民泊用の消防設備設置が必要です!非常に厳しい!

小規模特定用途複合防火対象物に該当しない場合で、かつ、現時点で自動火災報知設備を設置していないアパート等でしたら、1室で民泊をする場合、他の全室や廊下などに自動火災報知設備を設置しなければ原則消防の許可が下りないわけですので、それだけで数百万円の費用がかかることになります。

また他の部屋に消防設備を設置するということは、その部屋内に立ち入りしなければならないわけですから、その部屋の賃借人や所有者が協力してくれない場合は、そもそも設置が出来ないので、いくら金をかけても許可が下りないということになります。

(c)既に消防設備が設置されている建物でも、十分に注意が必要!

また延べ床面積が500㎡以上あるアパートの場合、自動火災報知設備等が既に設置されているケースもありますが、既に型式失効(現行法に合致しない)しているケースや、共同住宅用自動火災報知設備というアパート等でのみ認められる簡易設備のケース、再鳴動装置(鳴動後一度止めても再度鳴動するタイプ)が付いていないタイプなどもあり、結局設置しなおさなければならないケースも少なくないのです。

(d)その他にも、設置が必要になる可能性のある設備がある・・

さらに上記3種の設備以外に、建物規模によっては、民泊をする場合【屋内消火栓】【連結送水管】【スプリンクラー】【非常電源(自家発電設備等)】【火災通報設備】【避難器具】【漏電火災警報器】【防炎カーテン,カーペット】などの設置や交換が必要なケースもあり、我々も実際に建物を見て、消防設備業者、管轄消防署と協議しなければ、何が必要か結論が出ないケースも多いです。

消防業界でよく言われる言葉として「建物は一つとして同じものは無い」というものがありますが、消防法というものは、大きな火災事件がある度ころころと基準が変わっていて、特例も頻繁に出されています。

また本来設置しなければならない消防設備が設置されず放置になっているケースも多く、正しい建物管理が行われているなら、少量の追加設備設置で民泊許可が取れる場合であっても、経験上、実際は正しい建物管理が行われていないケースの方が多いため、この点が一番大きなハードルとなります。

(e)建物全体の収容人数が49人以下だった場合、防火管理者・消防計画も必要かも?!

また、民泊は、建物全体の収容人数が30人以上の場合、防火管理者の選任と、消防計画の作成提出が必要となります。

対して、アパート等共同住宅の場合、建物全体の収容人数が50人以上の場合のみ防火管理者の選任と、消防計画の作成提出が必要となっている為、収容人数が50人以上の建物であれば元々選任と提出はされているはず(されていないケースもありますが)ですが、収容人数が30~49人の建物の場合は、1室民泊が入ることにより、建物全体に防火管理者の選任と、消防計画の作成提出が必要となるケースがあります。

これは通常、建物のオーナー様か、管理会社が行うものですので、ここでまた一つ面倒が増えます。管理会社にやってもらう場合、別途費用をよこせと言われたりして、中々話が進まないこともありました。

(f)消防点検報告・消防訓練をやっていない建物なら許可が下りないことも!

更に、ほとんどのアパート・マンションでは、半年に1度、消防機器点検を、1年に1度、総合点検をし、特定防火対象物(物販店・飲食店・老人ホーム・民泊等)が入っている建物なら1年に1回消防署に報告を、特定防火対象物が入っていない建物なら3年に1回報告をする必要があります。

そして、特定防火対象物(物販店・飲食店・老人ホーム・民泊等)が入っている建物なら1年に1回消防訓練(及び報告)も必要です。この点検報告と訓練報告を、必要な期間内に行っていない建物もありますので、その場合、この点検報告と訓練報告を全て行い、かつ、点検報告で確認された不備(故障)部分を全て是正しなければ消防法令適合通知書は交付されません。

(g)結論:2階建ての一戸建ては消防法的に許可が取り易く有利

一戸建て2階建ては、細かい規制がほとんどなくて楽!

最も楽に特区民泊が取れる物件は何かと申しますと、2階建ての一戸建てです。

一戸建ては原則防火対象物では無い為、防火管理者も、消防計画も、消防点検報告も、消防訓練も不要です(民泊開始後は違いますが)から、建物の不備によって民泊許可が滞ることがほとんどありません。

消防設備も25~30万円で済むケースが多い!

さらに大半の場合、消防設備も【自動火災報知設備4~8コ】【避難誘導灯1~2コ】【消火器1~2コ】程度で済み、更に、【自動火災報知設備】は特定小規模施設用自動火災報知設備という簡易で比較的安価な設備で代替が可能ですから、消防設備費用も工事費込みでだいたい25~30万円程度で済みます。

契約電流50アンペア超の場合は10~15万円追加で料金が必要。

稀に【漏電火災警報器】が必要なケースがあります。

これは10~15万円程度かかります。設置基準は、木造ラスモルタル造で、かつ、契約電流が50アンペアを超える場合に必要となります。ラスモルタル造かどうかは、建築確認申請書がなければ中々分かりませんが、2階建ての一戸建てで契約電流が50アンペアを超える(ですから60アンペア以上ということ)ケースは稀です(3階建ての場合は60アンペア以上のケースはあります)。

契約電流は、だいたいメインブレーカーの上に小さく【40A】などと記載されていますし、またブレーカーにそのような記載がなければ、50アンペアを超えるような大きな契約電流ではありません。

(h)連棟長屋はねらい目だが、注意も必要!

連棟長屋は安くて、サイズ的にも民泊に使いやすい!

上記のとおり2階建ての一戸建ては民泊に適していますが、大阪市に多い、連棟長屋の場合は別途注意が必要です。

連棟長屋とは、3~6戸程の家が繋がっている建物、というイメージで考えて頂ければ結構です。別々に建築するより費用が安い為、数十年前はよく建築されていた様式です。

アパートを横に倒したようなイメージというと分かりやすいでしょうか。壁1枚隔てて隣の家になりますから、音が漏れやすいなどのデメリットはありますが、民泊用として販売されているケースでは、普通の戸建てより価格がかなり安いので、投資額を大幅に抑えられる為長屋で民泊をされるケースも多いです。

連棟長屋は、原則長屋全体に民泊用の消防設備が必要になる!

さて、そんな連棟長屋の場合原則として、長屋の内の1戸で民泊する場合でも、長屋全体に民泊の消防設備が必要です。

壁1枚で繋がっている家なので、長屋の内、1戸で火事が発生すると他の戸にも燃え広がる可能性が高い為です。 この原則に対し、例外が2つあります。

(例外1)自動火災報知設備については、民泊部分だけに設置するだけでOKなケースがある!


≪長屋特例≫ 
以下5つの条件をすべて満たしている場合は、民泊部分のみに消防設備を設置すれば足りる。

 
  1. 長屋全体の延べ床面積が1000㎡未満であること。
  2. 各戸全ての玄関が、避難可能な道路に面していること。
  3. 各戸間で階段、廊下などの共用部分を有しないこと。
  4. 所有権原又は管理権原が、各住戸ごと別々に分かれていること(持ち主又は借主が、全戸別々の人であることが必要という意味です)。
  5. 各住戸が、小屋裏まで開口部のない耐火構造又は防火構造の界壁で区画されており、かつ、給水管、配水管及び換気・冷暖房設備の風道が当該界壁を貫通していないこと。
1~3は普通満たしているはずです。

4は表札で別々の名字であることが確認できれば十分です。 問題は5です。

【小屋裏】とは屋根裏のてっぺんまでという意味ですので、屋根裏を覗いてみて、屋根のところまで不燃ボードなどの素材で塞がれていて、隣の家の屋根裏が覗けない状態であるか?という証明を消防署に対ししなければなりません。

我々の場合、屋根裏を覗いて、目視で確認し、カメラで隣の家との境の壁を数枚撮影し、消防署に提出します。なお、「給水管、配水管及び換気・冷暖房設備の風道が界壁を貫通していないこと」という条件もあるので、一部穴が開いて、そこにコード線が通っていたり、風道が開いていてもダメです(このケースは実際にありました)。

屋根裏なので天井に登って不燃材料かどうかを確認することまでは難しいとしても、少なくとも屋根裏のてっぺんまで隣の家との境が壁で完全に塞がれていることが確認できなければいけませんので、屋根裏の点検口がない家では、この特例は使えないということになります(通常点検口は押入れの上部分にあるケースが多いです)。

※この特例は自動火災報知設備についてのものですので、避難誘導灯や消火器等は連棟全体に必要となります。

(例外2)民泊用の消防設備をつけなくていいラッキーなケースもある!

≪住宅の一部を民泊として使用する場合の特例≫
消防庁資料のとおり、住宅の内、民泊部分が1/2未満、かつ、50㎡以下の場合、建物全体が一般住宅として扱われ、消防設備設置は不要(住宅用火災警報器は必要)となります。

民泊を行う部分が長屋全体の1/2未満でかつ、民泊使用部分の延べ床面積が50㎡以下ならば、何も消防設備が必要ないというケースもあります。

建物謄本記載の面積と、実寸が違うケースはありますので、コンベックス(メジャー)程度でよいので、実測をして消防署と事前相談した方がよいでしょう。


例外1,2が使えるなら連棟長屋がねらい目です!!

以上2つの例外で対応できるようであれば、連棟長屋での民泊もよいと思います。
どちらにせよ消防署との相談が必要ですが、管轄の消防署や担当官によって見解が違うケースもありますし、【聞き方】が重要です。消防署を含め役所は総じて、事件が起きた時に、自分に責任が及ばぬよう最大限の規制方向で話をします。

ですから、こちらが曖昧な質問をすれば、だいたいはダメな方向で話が進みます。 ですので微妙な消防の相談の場合は、最初から我々のような専門の行政書士や消防設備業者とともに、どのような方向にもって行きたいかを決めてから相談に行く方がよいと思います。

(i)通常の一戸建てと、連棟長屋の判断方法

【1】建物謄本に「専有部分の表示」があれば連棟長屋。なければ一戸建ての可能性が高い。


まず、建物謄本をみて、(専有部分の表示)という記載があれば、連棟長屋の可能性が高いです。この表示はマンション・アパートの時も同じ記載があるのですが、建物全体に対し、その所有者の所有している部分を示しています。

例えば建物全体は140㎡、内専有部分の表示が45㎡のような感じです。ただ、これだけでは判断出来ません。


【2】疑わしい場合は現地で建物の形状を調査 航空写真を見て隣と屋根が一緒か?実際に現地で建物の形状や隣の家との接着具合を見て判断することになります。

当職が扱った内の一例を申し上げますと、阿倍野区の物件で、建物登記簿上、「専有部分の表示」のある物件で、登記簿上は完全に2連棟長屋だったのですが、現地をみると、明らかに「元々一戸建てがあって、後でその横の壁に引っつけてもう一戸を建てた」ことが分かりました。

この建物は屋根裏の点検口がなく、下記住宅の一部を民泊として使用する場合の特例にも該当しないものだった為、本来でしたら屋根裏に点検口を無理やり開けて、長屋特例の対象になることを証明しなければ、民泊に関係のない隣の家にも自動火災報知設備や誘導灯などを設置しなければならないものだったのですが、元々一戸建てが建っているところの壁にもう一戸を引っ付けたことが明らかだった為、消防署に写真を持参し、さらに担当官に実際に現地を見てもらって、民泊部分だけの消防設備設置で済ませることが出来ました。

他の一例では、航空写真で屋根を確認すると、隣の家と屋根の種類が異なっていた為、となりの家とは連棟ではないという判断となり、民泊部分だけの消防設備設置で済ませることが出来た事例もありました。

(j)消防署との折衝は知識と経験で、結果が大きく変わる場合がある

折衝ひとつで消防設備が、60~70万円減額できることもある!

ここまで、消防法について最低限必要なことを簡単に纏めました。

繰り返しになりますが、消防署は役所ですから、ことが起こった時に責任を問われない為、質問されれば最大限の規制で説明します。上記の連棟についても、こちらから長屋の形状の説明をし、民泊部分だけの設置でよいだろうと説明しなければ消防署から「よい」とはわざわざ言ってくれません。ただこれだけでも60~70万円程度の消防設備の削減が出来るのです。

100万円ほど減額できたケースも!!

他にも、4階建ての建物の1階部分のみ民泊にするケースがありましたが、こちらも本来は建物全体に自動火災報知設備を設置しなければならず、消防設備費用は170万円程度かかると思われていたのですが、民泊部分が1階(避難階)にあったことと、何とか有窓階判定に出来そうだったことから、自動火災報知設備の特例(下記(k)参照)を使い、2~4階の自動火災報知設備設置の免除に成功した事例もありました(この件は此花消防署の担当官も非常に親切に対応して頂けました)。

このケースでも100万円程度の消防設備の削減が出来ましたが、こちらから提案しなければ消防署が言ってくれることはありません。

業者選びは「民泊の消防設備をたくさん扱っているか?」を必ず確認しましょう!

民泊の消防に関する知識と経験が豊富に有るか無いかで消防は大きくかわる可能性がありますので、申請を依頼する行政書士や消防設備業者を選ぶときは、民泊の消防について何件くらい扱ったかを聞いて見られるのがよいと思います。
(単なる消防設備の経験ではなく、必ず【民泊の】消防設備の経験と聞いてください)

もしくは、長屋特例って知ってますか?と聞いてもいいと思います。大阪市で民泊申請を10件以上おこなっている行政書士や業者ならほぼ長屋物件には当たっているはずです。

(k)(参考)自動火災報知設備の特例

消防予第595号(複合用途防火対象物等における自動火災報知設
備の取扱いについて)


<要件>
  1. 防火対象物の延べ面積は、500平方メートル未満であること。
  2. 特定用途(民泊等)に供される部分の存する階は、避難階であり、かつ、無窓階以外の階であること。
  3. 特定用途(民泊等)に供される部分の床面積の合計は、150平方メートル未満であること。
  4. すべての特定用途に供される部分から主要な避難口に容易に避難できること。